先日、『ゲームチェンジャー:スポーツ栄養学の真実』The Game Changers(2018年/ルイ・シホヨス監督/85分)という映画(以後『ゲームチェンジャー』)をNetflixで観た。
内容としては、ヴィーガンを激烈に推奨するプロパガンダ映画的な趣をもっていた。
主張の強すぎる映画は、基本的に苦手だ。
理由は、映画自体が壮大なプレゼンみたいで、なんかちがうなぁと思うからである。
しかし、その主張が興味深い場合、おもしろく観れてしまう。
結果として自分は、この映画を観て、菜食中心の生活に切り換えてみることにした。
今回は『ゲームチェンジャー』の内容に触れつつ、その経緯をご紹介したい。
自己紹介
内容に入る前に、まずは自己紹介。
自分は映画監督を目指しつつブログを運営している者だが、平行してボクシングもしている。
まだプロではないが、週6日はジムに通い、毎朝欠かさずに3~6kmほど走っており、運動量の多い生活を送っている。
それゆえに「スポーツ栄養学の真実」と謳われた本作が気になって観たわけである。
「肉を食わないと力が出ない」はウソ
※ここから先は具体的に映画の内容に触れることがあるので、ネタバレが気になる方はNetflixで本作を観てから読み進めていただきたい。
本作では、靭帯をケガしたUFCファイターのジェームズ・ウィルクスが狂言回しとなっている。
ちなみにウィルクスは2009年にTUFで優勝し、UFCで活躍していたのは10年以上前なので、名前を聞いて顔が思い浮かんだ人は相当のUFC狂だ。
自らの回復のために研究論文を読み、古代ローマのすぐれた剣闘士たちが菜食だったことを知り、ウィルクスは衝撃を受ける。

古代の格闘家は恵まれた境遇にあったはずなのに、菜食だったなんて栄養学の常識では考えられないと。
少し説明を入れる。
アスリートは、タンパク質に大きな関心をもつ傾向がある。
なぜなら、タンパク質は運動でエネルギー源として使われるためリカバリーに必要であるし、なにより筋肉をつくる働きをするからだ。
タンパク質を多く含む食材として、肉、魚、卵、乳製品を真っ先に思い浮かべる人がほとんどのはずである。
それなのに剣闘士が菜食だったなんて、という驚きだ。
有力な専門家の意見を数々と聞いていくと、以下のことがわかる。
- 摂取するタンパク質が動物性である必要はない
- “肉食神話”は19世紀の学者の説に由来している
- オリンピックの金メダリストや、現役アスリートにも菜食者は数多く存在する
- 肉に含まれるタンパク質は、そもそもが植物(エサ)由来
肉が植物性タンパク質の中継ぎ役だったことは驚きだが、1つの消えない疑念がある。
菜食のアスリートたちはみんな細身なイメージだ。
持久系の競技には適しているが、やはりパワー系に菜食は不向きなのではないか?
その疑念は、すぐに解消される。
オリンピックのアメリカ代表のウェイトリフティング選手も菜食であったし、樽上げやリフト系で数々のギネス記録をもつパトリック・バブービアンも菜食主義者であった(バブービアンは乳製品や卵すら摂らないヴィーガン)。
菜食がどんなスポーツのパフォーマンスにも、支障をきたさないことがわかる。
証言者の言葉を信じれば、菜食の方がむしろすぐれている(特にスタミナ・持久面において)。
菜食は回復能力を上げる
植物性タンパク質のもつ大きなメリットに、身体の炎症が抑えられる点がある。
理由は植物性食品が抗酸化物質の宝庫だからである。
抗酸化物質とは、身体の細胞が酸化するのを防いでくれる物質だ。
植物性食品の抗酸化物質含有量の平均値は、動物性食品の64倍あるという。
菜食に切り替えるだけで、3週間で炎症の数値が29%も減少した報告もある。
しかも、菜食にしてから疲れを感じなくなったという証言は本作のみならず、僕の大好きな細川バレンタインさんからも聞いた覚えがある。
とにかく治癒能力に関しては、植物性食品が動物性よりも、かなりすぐれているようだ。
ここで筆者の話になるが、ボクシングの練習と毎朝のロードワークで若干ヒザを痛めている。
寝る前にサロンパスを貼って、なんとか「ちょっと痛む」程度に留めながら、だましだましトレーニングライフを送っている。
この痛みがなくなるのであれば、今は控えているダッシュ系の運動や、ジャンプ系の瞬発力のトレーニングもできるようになる…。
この魅力は相当大きく、菜食を試したくなった一因となっている。
ここまでで菜食を試すモチベーションは十分に得られたが、映画はまだ中盤。
後半戦では鮮烈なヴィーガン・プロパガンダがくり広げられる。
展開されるヴィーガン思想
つづいて、人間は本来的に草食に適している、菜食は男性の生殖能力(ボッキ力)を高める、という趣旨のシークエンスが並ぶ。
以下は、本作の後半戦の主張を要約したものだ。
広告・メディアに隠された真実
そもそもなぜ、ファストフードは明らかに身体に悪影響を及ぼすのに、ここまで浸透しているのだろうか。
広告の力が大きいことはたしかだ。
この問いを考える上で、タバコに目を向けてみよう。
タバコは半世紀以上前のかつて、健康にいいとされており、喫煙者の割合も多かった。
アスリートも吸っていたし、彼らが広告塔にもなっていた。
しかし、その広告塔の代表的な存在であるベーブ・ルース(1895-1948)が咽頭ガンで亡くなって以降、タバコの有害性の科学的な根拠が世に出始める。
タバコ業界は新しい市場戦略を必要とした。
医者を宣伝に起用したり、自分たちで研究者を雇って論文を書かせて問題をすり替えたりした。
喫煙はガンの原因ではないと主張していたが、ついにスポーツ番組でのタバコのCMは禁止された。
タバコ業界と同じ戦略をファストフード業界は使った。
次世代のアスリートたちは、ファストフードの広告塔になっていった。
動物性食品の害を指摘する科学的根拠もあった。
わかったことは、食品業界は表立った反応をせず、学説を否定する研究を秘密裏に援助していた。
雇われた研究所の1つは、喫煙とガンの関係を否定するためにタバコ業界が雇った会社と同じであった。
この方法は、食品業界、医薬業界に実によく機能している。
話題に事欠かないという意味で、メディア業界も率先して取り扱う。
一見すると情報が錯綜しているように見えるが、食事の議論は世界的に合意が取れている。
健康に良い食事は、あらゆる論文が結論を出している。
それは植物中心の生活であると。
食肉文化は自然を破壊する
密漁対策団体の創設者が登場して語る。
密漁者から動物を護り、家に帰って動物の肉を食べる生活は矛盾していると。
動物を護る一番簡単な方法は、肉を食べないことだと思い、彼は菜食主義者になったそうだ。
彼らにとっての本当の脅威は食肉産業と、自然が奪われていくことだという。
ここから研究者が登場し、議論は世界規模に拡がる。
世界の農地の4分の3は家畜の生産に使われ、動物たちの生息地を破壊する最大の原因は畜産部門である。
肉、乳製品、卵、養魚は世界の農地の83%を使用している。
しかし、そこから人間が得ているカロリーは18%。
家畜は食材になった時のタンパク質よりはるかに多くのタンパク質を消費し、飼料には広大な土地が使われる(森林破壊の主な要因の1つ)。
水不足の現代でありながら、大量の水も消費される。
ハンバーガー1個に使用される水は2400リットルだという。
とんでもない量の廃棄物(全人口の50倍)からくる水質汚染も大きな問題である。
アメリカの肉の消費量は、世界水準の3倍もある。
菜食中心の生活に切り替えることができれば、農業による排出ガスが削減され、土地は潤い、絶滅寸前の土地や動物への負担は減らせる。
公衆衛生上にも環境的にも効果絶大である。
解決法は、野菜を多く、肉や乳製品を少なく摂るだけだ。
まとめ
ヴィーガン思想の部分が予想を上回るボリュームになってしまった。
「菜食生活を始めます!」と軽く宣言する記事のはずだったのに。
本作の出演者の全員が、後半部で展開されたヴィーガン思想をもっているとは思えない。
パフォーマンス向上や、健康のみを目的とした菜食主義者の証言者も多いはずだ。
だが、個人的には嫌いではない考え方である。
ヴィーガンにもいろいろな種類があるが、自分はまず卵と乳製品は口にするベジタリアン(肉と魚がNG)になってみようと思う。
ときには祝い事などで肉を食べることもあるかもしれないが、日常的には避けて、運動のパフォーマンスへの影響を観察したい。
自分は非力なため、しばらくはジムのみんなには菜食中心であることを秘密にするつもりだ。
「だからパワーないんだ!」とバカにされるのが目に見えているからだ。
ああ、肉食信仰は根深い。
変化が見えてきたら、記事で報告します!
それでは。