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思考や発想

『アイデアのつくり方』アイデア作成のバイブル

『アイデアのつくり方』(ジェームス・W・ヤング著/今井茂雄訳)の原著は1940年に初版されており、手元にある日本語訳(阪急コミュニケーションズ出版)は1988年が初版となっている。

この本はアイデアを作る人々にとって、まさにバイブルと呼べる本である。

本書のすごい点は、「アイデアのつくり方」を最小限の本文で、必要十分に語っている点にある

事実、1ページあたりの文字数は少ないながらも、本文は62ページで終わる。

自分はかつて、映画の企画作りへの栄養を求めて本書を読んだ。

しかし、読んでいるうちに、この本が広告に関するアイデア作成法に思えてきて、深く読み込まなかった。

これは大きな間違いであった。

なぜなら、本書の「アイデアのつくり方」は、広告以外の分野にも通ずる、普遍的なものであったからだ。

この記事では、本書で示された「アイデアのつくり方」の要点を紹介する。

第一に原理、第二に方法

どんな技術を習得する場合も、学ぶべき大切なことはまず第一に原理であり第二に方法である。

『アイデアの作り方』阪急コミュニケーションズ出版/初版第65刷、p25

上の主張にあるように、何よりも原理と方法が大切なのだ。

この本は、アイデア作成に必要な2つの原理と5つの方法(手順)のみを語って、本文を終える。

だから、短いのだ。

また、原理と方法に比べて、特種な断片的知識はまったく役に立たないと断言する。

そういった知識は「急速に古ぼけてゆく事実」なのだと。

しかし、知識がムダだと言っているわけではなく、それは後の章で明らかになる。

知っておくべき一番大切なことは、ある特定のアイデアをどこから探し出してくるかということではなく、すべてのアイデアが作りだされる方法に心を訓練する仕方であり、すべてのアイデアの源泉にある原理を把握する方法なのである。

『アイデアの作り方』阪急コミュニケーションズ出版/初版第65刷、p27

アイデア作成の原理

アイデア作成の基礎となる一般的原理は2つある。

アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもないといことである。

『アイデアの作り方』阪急コミュニケーションズ出版/初版第65刷、p28

この点に関しては、アイデアを作成する上で最も大切な事実だというが、この真価を伝えるには「方法」を語ったときの方がわかりやすいため、ここでは深く説明されない。

関連する第二の大切な原理というのは、既存の要素を新しい一つの組み合わせに導く才能は、事物の関連性を見つけ出す才能に依存するところが大きいということである。

『アイデアの作り方』阪急コミュニケーションズ出版/初版第65刷、p28

ここでの要点は、事物と事物の間に関連性が見つかると、そこから一つの総合的原理を引き出せるところにある。

それを把握できると、新しい適用、新しい組み合わせの鍵が暗示される。

その成果が一つのアイデアである。

よって、事実と事実の関連性を探ろうとする心の習性がアイデア作成には最も大切だという。

「関連性の発見」が重要という考えにはナジミがある。

『知的生産の技術』におけるカードの具体的な用法や、文章作成術“こざね法”の説明で梅棹氏が力説していた内容である。

『アイデアの作り方』という本は、真実を平易にサラリと表現する趣がある。

そのため、自分も最初に読んだときは読み流してしまい、書かれている内容の重要性に気付けなかった。

『知的生産の技術』や『思考の整理学』と連関させて、理解を深めるのはいい方法である。

いずれの書もアイデア作成に関する真実に触れていることは、たしかだからだ。

アイデア作成の方法

筆者のヤング氏はアイデア作成は、車の製造過程のように一定の明確な方法に従うものであると主張する。

そのため、アイデア作成の工程を5段階に分け、その手順を説明するかたちで話は進められる。

なお、これから紹介する段階は、下から順に進む必要がある。

“飛び級”は基本的にありえないものとされている。

第一の段階は資料を収集することである。

『アイデアの作り方』阪急コミュニケーションズ出版/初版第65刷、p33

拍子抜けした方も多いだろう。

だが普遍的なアイデア作成方法を説いた本書が、そのファースト・ステップとして取り上げるのがインプットであることは興味深い。

はじめにインプットありき!

さて、必要な資料は2種類である。

特殊資料と一般資料だ。

前者はあるケースにおいて必要な資料(ある広告における製品と、対象の消費者についての資料)、後者はそれ以外の森羅万象に関する資料のことを指す。

特殊資料を集めるのは当然と思われるかもしれないが、多くの場合その研究は中途半端な段階で中止されてしまう。

商品と消費者の間にある「関係の特殊性」を発見するまで掘り下げていくことの重要性が述べられている。

一般資料も特殊資料と同じように重要である。

なぜなら、アイデアの原理は「既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」からである。

広告のアイデアは、製品と消費者に関する特殊知識と、人生とこの世の種々様々な出来事についての一般知識との新しい組み合わせから生まれてくるものなのである。

この考え方も『知的生産の技術』で、日記を、つまりは人生を知的生産に結びつけようとしていた部分と通底している。

すべてはアイデアを得るための糧となる。

だからこそ、ストイックに自らの一般資料を増やしていく勉強は不可欠なのだ。

(第二段階)

これらの資料を咀嚼する段階である。

『アイデアの作り方』阪急コミュニケーションズ出版/初版第65刷、p43

食物が消化するより前に咀嚼が必要なように、資料をかみくだいてアレコレ考える。

資料を手にとって、心の触覚で触ってみること。

こねくり回したり、二つの事実を並べてどうすればかみ合うか考えたりする。

「関係性」を探す作業である。

どんな小さい思いつきでもメモしてカードに書く。

こうした努力を限界までしたとき、放心状態になることも多い。

ここまで行けば、第三段階に移れる。

第三の段階にやってくれば諸君はもはや直接的にはなんの努力もしないことになる。諸君は問題を全く放棄する。そしてできるだけ完全にこの問題を心の外にほうり出してしまうことである。

『アイデアの作り方』阪急コミュニケーションズ出版/初版第65刷、p47

要は、なにもするな、である。

この段階もまた、前の2つの段階と同じく必要不可欠なものであることを知ることが、大切である。

『思考の整理学』でいうところの、素材(麦)がビールに醗酵する前には“寝かせる”必要があるという考えだ。

重要なことは、問題を心の外に放ること。

問題を完全に放棄して、何でもいいから自分の想像力や感情を刺激するものに心を移すことである。

そのため、音楽、本、映画などに心を傾けることは、第三段階を積極的に促進させる行動といえる。

これまでの段階を整理すると、以下のようになる。

  • 第一の段階は食料あつめ。
  • 第二の段階は咀嚼。
  • 第三の段階は消化過程のはじまり。

(第四の段階)

どこからもアイデアは現われてこない。

それは、諸君がその到来を最も期待していない時ーひげを剃っている時とか風呂に入っている時、あるいはもっと多く、朝まだ眼がすっかりさめきっていないうちに諸君を訪れてくる。それはまた真夜中に諸君の眼をさますかもしれない。

『アイデアの作り方』阪急コミュニケーションズ出版/初版第65刷、p49

ここで語られているのは方法ではない。

アイデアが到来したということである。

アイデアを探し求める心の緊張をといて、休息とくつろぎのひとときを過ごしてから、ふとしたタイミングで解答が舞い降りてくる。

アイデアの実際上の誕生で、ユリイカ!発見せり!の瞬間である。

重要なのは、第四の段階が訪れる条件が、第一、二、三の段階を経過した点にあることだ。

あるプロセスの結果として、アイデアが生まれる。

そう表現するしか、しようがないのだ。

ゆえに、この部分はアイデア生成における最も神秘的な瞬間とされている。

(第五の段階)

ほとんどすべてのアイデアがそうだが、そのアイデアを、それが実際に力を発揮しなければならない場である現実の過酷な条件とかせちがらさといったものに適合させるためには忍耐づよく種々たくさんな手を加える必要がある。

『アイデアの作り方』阪急コミュニケーションズ出版/初版第65刷、p53

すぐれたアイデアも自分の脳内にあるだけでは、赤子のようにもろい存在である。

そのアイデアを、企画書のかたちにして、脚本に取り入れ、またはカット割に活かして、現実世界に送り込まねばならない。

企画書にしても、審査を通過できるかはわからない。

通過しても、撮影までこぎつけることはできるだろうか。

アイデアを現実の荒波にもまれてなお、輝かせるのは至難の業である。

アイデアが生まれた後のことに内容が及んでいるかもしれない。

しかし、間違いなくこの段階は、アイデアがこの世に形を残すためには不可欠なのだ。

おわりに

この本で記されたのは、アイデア作成の原理と方法(手順)である。

別の言い方をすれば、「どうすればいいアイデアを作れるか」という問いに対する十分な記述はない。

しかしながら、その答えは明確である。

第一の段階のインプットの量と質を高め、第二の段階における咀嚼の精度をあげることである。

それを実現する方法は、各々が全力でやる、という以外にないのではないか

身もフタもないが、道はそれしかない。

そう自分を戒めて、今日もがんばる。