みなさんアマンダ・ヌネスって知ってますか?(ナイツ塙さん風に)
悲しいかなUFCファン以外には浸透してない名前である。
彼女は歴代最強の女性格闘家だ。
この記事を読んで、異常に強い女性格闘家がいることを覚えていただきたい。
アマンダ・ヌネス プロフィール
アマンダ・ヌネス Amanda Nunes
1988年生まれ(32歳)
国籍:ブラジル
通称:ザ・ライオネス(雌ライオン)
身長:173cm
所属:アメリカン・トップチーム(ATT)
戦績:21勝4敗(2021年4月1日執筆時点で)
UFC女子バンタム級、フェザー級チャンピオン
レズビアンを公表しており、パートナーは同じUFCファイターであるニーナ・アンサロフで、昨年アンサロフが出産した娘が1人いる。
ヌネスがなぜ最強か
ヌネスが最強である理由はなにか。
それは2010年代に最強とされてきた女性格闘家や、チャンピオンをもれなく倒してきたからに他ならない。
直近10試合の対戦相手を古い順に並べてみよう。
- ヴァレンティーナ・シェフチェンコ(現UFC女子フライ級絶対王者)
- ミーシャ・テイト(元UFC女子バンタム級王者。スーパースター)
- ロンダ・ラウジー(元UFC女子バンタム級絶対王者。女性格闘家史上最高のスター)
- ヴァレンティーナ・シェフチェンコ(現UFC女子フライ級絶対王者)
- ラケル・ペニントン(ランキング2位の挑戦者)
- クリスチャン・サイボーグ(女子最強と目された1階級上のフェザー級絶対王者)
- ホリー・ホルム(元UFC女子バンタム級王者。MMA転向前は女性最強ボクサー)
- ジャーメイン・デ・ランダミー(元UFC女子フェザー級王者)
- フェリシア・スペンサー(フェザー級で勢いのある挑戦者。他団体では敵なし)
- ミーガン・アンダーソン(フェザー級で勢いのある挑戦者。身長183cm)
錚々たる対戦相手たちである。
このファイターたちをヌネスは立て続けに倒している。
この中で、とりわけ象徴的だった試合を2つ取り上げたい。
VS ロンダ・ラウジー(2016.12.30)

ラウジーは女性格闘家史上最高のスター選手である。
UFC史上最高のスターは誰かと問われれば、それはコナー・マクレガーだ。
彼は総合格闘技の知名度・総合格闘家のステータスを1ランク上に持って行ったと言われる。
女性格闘技における、そういった存在がラウジーであった。
持って生まれた華やかさと美貌に加え、試合もとにかく面白く、判定までもつれ込んだ試合はない。14戦12勝2敗というキャリアのうち、勝利した12戦のうち11の試合を1Rで終わらせている(残り1戦は3R)。これは異常な数字である。
ラウジーは人気絶頂の中、ホリー・ホルムに敗れ、翌年の復帰戦でヌネスと戦った。
ヌネスはラウジーをわずか48秒で沈めた。
この試合を最後にラウジーは引退する。
ヌネスが引導を渡したのだ。
世間の反応は「ヌネス強い!」ではなく「ラウジーがメッタ打ちにされて切ない」というものが支配的であった。
しかしながら、ヌネスが「ラウジーを倒したファイター」として大きく知名度を上げた試合であった。
VS クリスチャン・サイボーグ(2018.12.29)

サイボーグは女性最強格闘家と目されていた。
ヌネスと対戦する時点で13年間負けなしで、20連勝中という驚異のファイターであった(自身の薬物使用による無効試合を1戦はさむ)。
UFC女子の最重量階級はフェザー級であったが、このサイボーグがUFCで試合をするために新設されたと言われている。
サイボーグはフェザー級で無敵状態であった。
同階級に対戦相手がいなくなると、他階級の選手に視野が広がるのが格闘技界の常である。
1つ下のバンタム級にはシェフチェンコを倒し、テイトを倒し、そしてラウジーに引導を渡したヌネスがいる。
バンタム級でレガシーを築いた王者ヌネスが、1階級上の最強王者サイボーグと戦うのは高いリスクを伴う。
ヌネスが対戦に意欲を見せつつも、なかなか試合日程を決めないのでサイボーグが不満をもらす一幕もあった。
ようやく試合が決まり、格闘技ファンはこの対決がUFC女子フェザー級タイトルマッチであることを超えて、女性格闘家の最強決定戦であることを心得ていた。
階級は違えど、お互いにこれ以上ないほどのキャリアを積み重ねてきたチャンピオン同士が激突する。
この対決を2010年代の女性格闘技界の総決算と呼んでも決して過言ではなかった。
試合当日のオッズはヌネス不利の予想が出ていた。
しかし、ヌネスはサイボーグを51秒でKOした。
わずか1分足らずの試合でありながら濃密な内容で、筆者はその年のベストバウトだと思った。
試合は打ち合いとなった。
「打ち合い」ではあるが、ヌネスの高速回転させたパンチが的確にほとんど全てヒットし、サイボーグのパンチは当たらなかった。
結果として見れば、ヌネスのパンチが強烈にヒットしても、サイボーグが距離を取らずに打ち合い続けたことが敗因である。
ではなぜ、サイボーグは下がらなかったのか。距離を取れなかったのか。
絶対の自信があったからである。
「私が打ち合いで負けるはずがない」
「私より相手が強いわけがない」
これはアスリートのタブーである「驕り」であろうか。
筆者はそうは思わない。
13年間負けなし、20連勝の選手である。
彼女が最強であることは決して間違いではない。
ただ、ヌネスがサイボーグ以上に強かったのである。
高々と掲げられた金看板が51秒で崩れていく様に、爽快感と切なさを同時に味わった。
この日以来、アマンダ・ヌネスが史上最強の女性格闘家である。
これからのヌネス
アマンダ・ヌネスが最強の女性格闘家であることが伝わっただろうか。
ヌネスを一番追い詰めた選手はヴァレンティーナ・シェフチェンコであった。
彼女はヌネスに劣らぬ抜群の格闘技センスとスキルを持つが、バンタム級としては小柄でヌネスにはフィジカル的な不利があった。
シェフチェンコは現在、バンタム級の1つ下のフライ級の絶対王者として君臨している。
先日の大会でヌネスはフェザー級の防衛も果たし、いよいよ対戦相手がいなくなってきている(女子フェザー級は元来選手の人口が少なく、ヌネスに挑戦できるような選手も見当たらないため閉鎖されることが決まった)。
普通ならモチベーションを保てず引退してもおかしくない状況だが、ヌネスは産まれてきた娘のためにこれからも戦うと言う。
彼女をママと呼ぶべきか、パパと呼ぶべきか、正解はわからない。
実況などではいまだに「女性とは思えない強さ」などという時代遅れな言葉が飛び交う。
男性的/女性的という形容は、いまや現実に即さないオワコン・ワードと化している。
「男性的」が強さや勇敢さを表す言葉であるとするならば、ヌネスは99%の男性格闘家よりも「男性的」である。
そういった時代でもなお、ヌネスが女性であるがゆえに不遇な点は、対戦相手の枯渇だろう。
男子も含めた全格闘家を含めて考えても、屈指に傑出したファイターであるヌネスに、その実力を示せる相手が見当たらないのだから。